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  • 石割 誠

成年後見制度利用に際して注意すべきことなど

更新日:2020年9月26日

ある程度の年齢になってくると、高齢の親族について成年後見(成年保佐、成年補助)制度の利用を考えたり実際に制度を利用しているという経験を持っている方がでてくると思われます。

成年後見制度は、加齢や知的障害などによって財産の管理や契約などをする能力に問題が生じている方について、その本人や配偶者、一定の範囲の親族などからの申し立てにより家庭裁判所が成年後見人などの補助者を選任して本人やその財産を保護するという制度です。本人の能力に問題が生じている程度によって成年後見(判断能力が欠如している状態が通常の場合)、成年保佐(判断能力が著しく不十分な場合)、成年補助(判断能力が不十分な場合)という類型が設けられています。

これらの補助者(成年後見人、成年保佐人、成年補助人)が、本人に代わって代理人として契約を行ったり、本人が契約をするに際して内容を検討、確認して同意を与えたり、本人が一人で行った行為を取り消したりすることによって、本人を補助、保護して行くわけです。

(これらの補助者がどういう方法・手段で本人の補助をするか、いいかえれば、補助者の権限の範囲や本人が自分でできる行為の範囲は後見、保佐、補助のそれぞれの類型ごとに法律で定められていますので、詳しいことは裁判所、法務省のホームページなどで確認してください)


成年後見制度の利用を考えるようになるきっかけとしては、たとえば高齢の親族が土地の処分をしようとしたところその登記を依頼した司法書士から本人の能力が怪しいから成年後見の申し立てを検討してくれと言われたとか、施設への入所契約をしようとしたところ施設側から同じようなことを言われたとか、銀行預金の解約をしようとしたところ本人の能力に疑いがあるからそのまま応ずることは出来ないとしてまず専門家に相談するよう勧められたというような場合があると思います。また、そういうふうに具体的に困ったことが起きてしまったわけではないが、高齢の親族の言動に不安があって財産をだまし取られないかとか、何かのトラブルが発生しないか不安だから専門家による補助が受けられるようにしておきたいというようなケースもあるかもしれません。

前者の場合には否が応でも成年後見人を選任してもらうしかないというケースが多いでのでしょうが、そういうときでも実際に成年後見の申し立てを行うという際には、やはり成年後見制度の利用によって発生する負担や、同制度を利用したとしてもあらゆることが解決されるわけではないといういわば制度の限界ということは理解しておく必要があると思います(申し立てに当たっては、家庭裁判所である程度の説明があることが多いでしょうし、説明用に作成されたビデオ映像を見るよう求められますから通常は大事なことはそれでたいてい理解できると思います。)


まず、家庭裁判所から成年後見人などとして選任されるのは、本人の配偶者などの親族の場合(親族後見人)と弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家の場合(専門職後見人)がありますが、専門職後見人場合には専門家としての知識、経験、資格を生かしてもらう趣旨で選任されますので原則として報酬が必要になります。報酬は本人の財産の中から支払われることになります。専門職後見人が選任されるケースとしては、例えば、後見人候補になるような立場の親族間で紛争があるとか、元々本人が法的な紛争を抱えているとか、本人の財産が多額で専門家による管理が相当だというような場合が挙げられます。なお、成年後見人には親族を選任したうえで、別に後見監督人を付けることにしてそれを専門職にするなどのパターンもあります。


また、親族が後見人などに選任された場合についても、後見人などは家庭裁判所の監督のもとに他人(本人)の財産を管理するという制度ですから、最低1年に一回は家庭裁判所に対してその期間の収支の計算や財産の状態、本人の身上に起こった重要な出来事などの報告を求められ、報告書を作成し提出しなければなりません(預金通帳のコピー、多額の契約や買物などの際の契約書や領収書などの添付も求められます)。そのため普段から通帳類をしっかり管理する、出納の記録は残しておく、多額の出費の領収書は残しておくこと等が必要になってきます。


本人に多額の預貯金などがある場合には、後見人などによる不正使用を予防するために、手元には必要な金額だけ残して残りの大部分は信託銀行に金銭信託として委託しなければならなかったり(後見支援信託)、銀行、信用金庫に後見支援預金として預け入れて家庭裁判所の指示がないと引き出しができなくする必要があったりします。


また、財産管理については、本人の財産の安全な維持、管理ということが第一に考えられますから、例えばそのまま預貯金でもっていると実質的に目減りする虞があるから株を買っておこうとか投資しようというようなことはできませんし、将来の相続に備えて節税のため土地を分筆することなどもおそらく認められないと思われます。


成年後見、成年保佐、成年補助はいずれも本人の財産管理だけではなくて、本人の生活、療養看護などの「身上監護」も必要性の程度によってそれぞれその任務になるのですが、そこでいうのは本人の住居の確保、生活環境の整備、介護や治療のためにサービス契約や施設、病院の入退所の契約を行うなどのことであって、たとえば食事や入浴の世話をするとか介護行為を自ら行うなどの事実的行為は含まれません。したがって、専門職が後見人などに選任されていたとして専門職が行うのは必要なサービス、施設をコーディネートして契約を締結するなどにより本人の身上に配慮しそれを確保する手段を講じ環境を整えるということであり、専門職が通ってきて本人の食事、入浴の世話をしたり介護サービスをしてくれるというようなことはありません。


専門職が行う財産管理についても、それは本人の補助、保護のために必要の範囲で行うというのは当然のことですから、必要もないのに専門職が毎日本人の所持金を確認しに来るとか入出金の帳簿をつけに来るなどということはありません。


以上成年後見制度利用に際して知っておかないと後で期待したのと全然違ったと嘆くことになったり、トラブルになったりするようなことの一端を挙げてみました。成年後見制度に限らず実際に法律制度を利用しようという場合には専門家に相談したり、アドバイスを求めるのがよいと思います。





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